キネマ旬報 2018年8月上旬特別号 No.1785

既に７月上旬号のレビューでも触れたように､７０年代に１０代を過ごし､８０年代前半の青春期に後追いでこの時代の映画たちを熱心に観ていた者からすると､今号は気になる存在だ｡厳密に言うと､日本映画は８０年代の作品によりシンパシーを感じるのだが､ジュリーと文太のツーショットのスチール写真｡個人的にも影響を受けた「太陽を盗んだ男」が表紙を飾る(ベストワンに選ばれた)となると話は別で､結局誘惑に負け購入してしまった(笑)｡７０年代の日本映画は６０年代後半の熱気と喧騒の時代が終わり､夢虚しく破れてシラケ主義が到来する中で始まった｡映画界に於いては､大映が倒産し､日活も経営不振からロマンポルノ路線に大転換､斜陽化がどんどん加速していた頃だ｡そんな空気の中､時代の閉塞感や鬱屈感をひりひりと感じる映画､時代の仇花ながらどくどくと血を噴出させたような映画､エリートよりもアウトロー､市井の人々よりも犯罪者､ただひたすら堕ちていく者たちにフォーカスを当てた映画､そんな､重く､暗く､激しい映画が主流となり､傑作も数多く輩出された｡とにかく､この時代は低予算で２週間毎に量産公開されていたB級プログラムピクチャー群が最後の輝きを以て勢いがあった｡東映実録やくざ映画路線や日活ロマンポルノは近年DVDソフト化が進んでおり観る事が可能となったが､東宝や松竹､西村潔や小谷承靖､山根成之や前田陽一らの映画たちにも陽が当たると良いのだが｡もちろん､エンタメ映画もあり､７０年代後半には‘’読んでから観るか､観てから読むか‘’のキャッチフレーズと共に角川映画がセンセーショナルに登場するが､その露骨な複合ビジネスと話題性ばかりが先行し出来映えが伴わなかった事に映画ジャーナリズムからは冷笑されていた事が思い出される｡個人的には角川春樹のハリウッドと勝負するというような大言壮語な山師ぶりに突っ込みを入れながらも､「人間の証明」では現地スタッフ､キャストを雇って本格的なNYロケを敢行し､ロイ･シャイダーやジョージ･ケネディを主役に起用しようとする心意気にはある程度好意を以て見ていた気がする｡ま､角川映画が名実ともに映画メディアやファンの心を捉えたのは８０年代であったな｡今回､選者たちにより上位にランクされた作品はどれも順当であり､恐らく「ルパン三世･カリオストロの城」と「HOUSE･ハウス」以外は､１０年前､２０年前に同じ企画をしても殆ど同じ結果が出たのではないか｡あれから時代は移り変わり､日本映画も大きく変貌を遂げた｡これらの映画たちが､今の時代､若い世代の映画ファンたちにどれだけ評価されるか分からないが､少なくとも､あの時代､映画館の暗闇の中で反公序良俗で不良性感度の高い映画を夢と浪慢を抱きながら熱烈に支持していた者たちがいた｡それだけは間違いないとそのひとりとして懐かしく読み終えた｡(付記)そんなひとりが選んだこの時代の忘れられない映画たち｡１太陽を盗んだ男２新幹線大爆破３仁義なき戦い･代理戦争4青春の蹉鉄５エロス+虐殺６砂の器７(秘)色情めす市場８竜馬暗殺９日本侠花伝10三里塚･辺田部落１監督１作品に絞ったが､深作欣二と神代辰巳のお二人だけでも１０本選べそうだ｡